Jul 1, 2008

いちばんやさしいファイナンスの本 保田隆明





この本は、新宿の紀伊国屋で見つけた。メーカー勤務だからといって、この先ファイナンスのことを知らぬまま社会人生活を送るのは不安だと思っていたところに、この本に出会った。本を手に取ってからわかったのだが、この筆者のブログを私は普段からよく読んでいる。
http://wkwk.tv/chou/ 
元来専門的でなかなか一般庶民にわかりにくかった金融の世界を、この筆者は極めてわかりやすく書くなぁと常日頃から感じており、私はこの本にも「わかりやすさ」を期待した。そして期待通りだった。
 
この本には、決算書の読み方から、果てはM&Aに関することまで幅広く網羅してある。まず印象的だった言葉は、「決算書は写真であり、コーポレートファイナンスは動画である」というフレーズだった。この2つを混同して考えるからファイナンスという概念を難しく感じるのであり、さらにはどこを勉強してよいかわからなくなってしまい理解不能、という悪循環に陥るということに気づかされた。このように身近な例に例えて概念を説明してくれるので、初心者の私でもファイナンスの世界をスムーズに理解できた。また、初心者の覚えるべき点、専門的で覚えなくてもよい点を明確にしてくれるので、読んでいて消費エネルギーが少ないのには助けられた。



また、もうひとつ納得した説明として、「業界や各企業によって儲け方や費用の使い方が違うため、統一した書式としての”決算書”が必要なのである」というものがあった。これは多くの皆さんが一度は考えたことのある、「何で給料のいい業界と、そうでない業界があるの??」という疑問の答えになるだろう。世の中には、大規模な設備投資や広告媒体を必要とする製造業もあれば、極端な話ではあるが人のアタマとパソコンのみでビジネスが成り立つコンサルティング業や金融業もある。もちろん、後者のほうが高給なのは自明の理である(もちろん例外はあるが)。この答えを証明するものとして、決算書という、どの企業でも共通の診断書が存在するということである。


さらには、例えばホテル業界における超高級ホテルとビジネスホテルの違いのように、同じ業種のなかでも様々なスタイルが生まれている。これら同業の中での「儲け方」の違いにも触れられていて、「世の中にはいろんな儲け方があるのだな」とつくづく思った。


また金融のスペシャリストである筆者らしく、後半にはM&Aについてくわしい。企業という形の無いものに値段を付けて売買するという概念そのものがわかりにくいが、要はその事業の持つ様々な資産(ブランドといった、無形資産も含める)と、今後その事業が稼ぎ出す”であろう”額の合計が、事業の買収額になるのだという大まかなことが理解できた。そして多くの場合、その額は「時価総額」という名前で市場に知られているということもわかった。過去にホリエモンが執拗にこだわった、あの時価総額である。


このように、この本には今現在必要とされるファイナンスの知識が一通り網羅されている。しかし、この本では物足りないという方もいるであろう。また、文章や表現に重みや含蓄を感じられないという方も多いであろう。この本は、それらを省く形で「わかりやすさ」を最大限重視したということは、理解しておく必要がある。だれも、家電の取扱説明書に、感動や含蓄を求めたりはしない。そういうことである。

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