Jul 13, 2008

流れる星は生きている 藤原てい


ひょんなきっかけで、おそらく誰かのブログか雑誌で知った本。新田次郎の妻である著者の、満州引き揚げについて書かれたノンフィクションである。

日曜の朝、午前中で読みきってしまった。内容が薄く、さらさらと読めたわけではない。完全に引き込まれた。物語の最初は、戦局的に引き揚げの可能性が生まれ、夫が召集されるところから始まる。いきなりである。その後、言語に絶する「旅」すなわち強行軍が始まる。

ふだん私がレビューを書くビジネス書や何かの解説本なら内容も詳しく書くが、これはドラマである。従って、内容にはあまり触れないでおく。生きる執念、絶望、疑心暗鬼、心正しい者をも蝕む極限状態、それでも子供や夫を想う心の芯。これらは月並みな言葉ではあるが、現代を生きる自分には縁遠いものであり、非常に強い衝撃をもらった。

最近、本を多く読んでいる(少なくとも自分としては)が、この本によって読書の醍醐味を思い出すことができた。つまり、他人の人生や経験を追体験することである。特に今回は、ほぼ味わうことはないであろう(ある意味、味わってはいけない)経験を追うことができたと思っている。司馬とも違う、リアルな息遣いやうめき、または希望を感じた。人として、この本は読んでよかった。

ひとまとまりの紙と文字に、渾身の力を込めて生きた人間の思いが詰まっている。読まない理由はない。

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